読書感想文3 ― 『インフルエンザ危機』

 本書を読んだのは発刊後すぐだったので、2005年末か2006年初めであったと思います。

 当時は先日、WHOから終息宣言が出されたインフルエンザ(H1N1型)ではなく、その前に恐れられた鳥インフルエンザ(H5N1亜型)の騒ぎが少し収まったかどうか、と言う時期でした。

 先日終息宣言が出されたインフルエンザ(H1N1型)についてもそうですが、初期にはマスクがなくなるという事ですら毎日の様に報道され、実際に街のドラッグストアにはマスクがなくなり、マスクを転売する輩まで出るという現象すら起きましたが、半年も経つとニュースでインフルエンザについて目にする事もほとんどなくなりました。

 インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)について必要以上に騒ぐ事はないと思いますが、それにしても『喉元過ぎれば熱さを忘れる』と言う印象を受けてしまいます。

 そこで本書を取り出して改めて読んでみました。確かに今回のインフルエンザ(H1N1型)については、発刊が発生前なので触れられていませんが、その内容は読んでおいて損をしないものになっていると思います。

 また、本書はウィルス研究者として研究職の魅力、という所にも力を入れて書かれているので研究職に就く事に悩んでいる方は読んでみると良いかもしれません。

目次
はじめに
第1章 新型インフルエンザの足音
鳥インフルエンザ、79年ぶりの日本上陸 / 鳥インフルエンザウイルスはどこから日本に来たのか / 茨城事件で考えられること / 鳥インフルエンザウイルスが人にうつる可能性 / 鳥、ブタ、人のウイルスリレー / アジア諸国鳥インフルエンザ事情 / タイ、ベトナムからの現状報告 / ベトナムの研究者とのコラボレーション / 新型ウイルスの足音
第2章 さまざまなインフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスとの遭遇 / 野鳥のフンを調査せよ / ミンクとインフルエンザの不思議な関係 / ウマインフルエンザがもたらす被害 / 鳥取大学でのインフルエンザウイルス研究 / インフルエンザウイルスの型分け / カリスマ研究者の研究室へ赴く / アザラシの大量死事件調査/ ペンシルベニア事件を追え! / ニューヨークの生鳥市場を洗え! / メキシコの流行で新たな発見
第3章 インフルエンザウイルスVS.ウイルス研究者
人類対インフルエンザ攻防史 / インフルエンザウイルスの個性 / エボラウイルスとインフルエンザウイルスの類似点 / パンデミック・ウイルスの脅威 / スペイン風邪の子孫はなぜ復活したのか? / 世界規模の新型インフルエンザ対策 / アメリカと日本の研究事情 / 有能なウイルス研究者の条件 / 政策形成のプロセスを透明化する「監視機能」 / ツイッターで「構築機能」は実現できるか / 旧メディアとソーシャルメディアの連携の可能性 / ネット時代のジャーナリズム
第4章 インフルエンザウイルス研究最前線
人を襲い始めた鳥インフルエンザ / たった1個のアミノ酸がウイルスの毒性を左右した / 研究がもたらす”興奮” / インフルエンザウイルスの人工合成に成功! / CIAエージェントの接触 / インフルエンザは生物兵器になり得るか? / 東大医科学研究所でのインフルエンザ研究 / 日本でのウイルス研究の問題点
第5章 新型インフルエンザから身を守るには
インフルエンザは世界の人口を左右する / インフルエンザ予報の的中率 / 日本のワクチン事情 / 社会的なインフルエンザ予防策だったワクチン学童集団接種 / アメリカのワクチン事情 / 抗インフルエンザ薬の効果
あとがき

 本書はインフルエンザについての概要を非常にわかり易い文章で書かれています。『あとがき』には、『著者の母親が読んで90%理解できる本にしたい』、と書かれていますが、その通りの内容になっていると言えるでしょう。

 この手の新書を読むと、その内の何冊かは専門用語の羅列で、その単語を読む事で満足してしまう事が少なからずあるのですが、この本はしっかりと内容を理解出来る様に書かれており、また現在の問題点を提示してあると思います。

 科学分野の本や報道は畑違いだと、なかなか内容が判断し難い事が多いです。特に報道は実際に『起きてしまった事』に関してとにかく危機を声高に叫ぶ傾向があるので、僕はかなり敬遠してしまいます。

 しかしインフルエンザに関しては、今現在(2010年8月)はWHOから終息宣言も出され、日本国内としては落ち着いている状況なので、今こそ本書の様な本や過去の報道を振り返って、自分なりに整理しておく事が必要なのではないでしょうか。

 (日本国内的には落ち着いていますが、ニュージーランドなどでは未だに発生が続いています)

 そうすれば、次にインフルエンザの流行の兆候が現れた時に、必要な情報を報道から抽出して落ち着いた行動をとれる可能性が高まる様に思えるのです。

 ところで、僕は中学生の頃には研究職に憧れを抱いていました。それがある時から薄れてしまって今に至るのですが、本書の様な本を当時から多く読んでいれば、研究職への憧れを抱いたままその道に進めたかもしれない、と思わされてしまいました。

 先にも書きましたが、研究に携わる事についても本書では触れられていますので、将来研究職を目指す方は読む事でモチベーションが保たれるかもしれません。


関連リンク
新型インフルエンザ (wikipedia)
2009年新型インフルエンザの世界的流行 (wikipedia)
日本における2009年新型インフルエンザ (wikipedia)