やすい男

 今日のバイト帰り、完全に疲労し切った身体を引き摺りながら駅で切符を買おうとしていると、20代後半位の女性に声をかけられました。
普段、私は表を歩く時にはiPodで音楽を聴いているのでほとんど話しかけられる事はないのですが、(音楽を聴いているからではない、という反論は受け付けません)このバイト帰りの時にはスーツである事、手提鞄である事、音楽すら聴けない程に疲れていた事などから聴いていなかったのであります。

 大抵の人は、知らない人に声をかけられた瞬間は身構えると思いますが、私もご多分にもれず疲れた身体に緊張が走りました。
振り返って見てみると何とも困り果てた顔をした女性(20代後半)が、携帯電話を『両手で!』握り締めながら立っているではありませんか。いやあ、久しぶりに本格的に困っている人を見た気がします。女性の演技かもしれませんが、演技でもあれだけ出来るならば立派です。

 結局、女性の話は要するに「電話をしなければいけないが、携帯電話の電池が切れてしまい、公衆電話でかけたいのだが、小銭がないので両替をして欲しい。」と言う事だったのです。
駅ですから、改札に行けば駅員がいますし、目の前にコンビニもキヨスクもあります。そんな中で私に声をかけたなんて余程困り果てて思考能力が低下してしまったんだろうなあ、等と考えながら切符を買う為に取り出していた財布から小銭を取り出そうと見てみると・・・

ないのです。255円しかないのです。
今度は私が慌てる番です。恐らくここで「ごめんなさい。小銭が全然ないんです。(本当は札も)」と言っても、その女性は自分に係わり合いたくない為にそう言ったと思うでしょう。若しくは単純に「使えねーな。」と思うかもしれません。私にはそのどちらを思われる事も耐えられた物ではありません。

私はここで、一つの解決策を閃きました。一駅区間の切符を買えば残りの区間は定期があるし、お釣で小銭も返って来るではないか。

 お釣で返って来る最大の小銭は40円であります。(50円玉が切れていて全部10円玉で返って来る可能性も否定出来ませんが。)一駅区間の料金が130円であるので、150円を入れても200円を入れても結局小銭的には20円です。最大の小銭40円を手に入れる為には210円の切符を買う事が必要です。しかし、210円の切符は何故かなく、結局一駅区間分だけ切符を買い、お釣の20円を女性に手渡しました。

その女性は物凄く丁寧にお礼を言い、「近くの方でしたら今度是非お礼を」と言うような事を言ってくれましたが勿論そこは「いえいえ」で遮り、改札へ急ぎました。
改札を抜けてから、これが発展すれば『電車男』ならぬ『御釣男』とかになるのだろうか等と下らない事を考えながら歩いていていると、閃かなくて良い事を閃いてしまいました。

公衆電話は100円玉も使える!!

なんですか、これじゃあ100円玉もあげられない物凄くケチな男みたいですな。この程度の事で良い事をした、とかは思いませんがここまで後悔をさせなくてもいいんではないか、と思ったりしました。

まあ、とにかくあの女性が無事電話が出来、連絡をつける事が出来た事を祈っております。

そういえば、去年仙台に旅行した時も同じ内容のお願いをされたなあ、なんて思い出しました。もしや、私は頼み易い人間ですか。