∞戯言∞

 家を出た僕は唐突に街にある幸せの数を数えてみようと思い立ったんだ。友人達はきっとそんな僕を病んでいると思うのだろうけど、別に深い意味なんてない。今日は珍しく昼過ぎに家を出たから春の暖かさを感じられた、ただそれだけの理由なんだ。それが病んでるって?じゃあ、別に病気でもいいや。
まあ、そんな訳で僕は幸せの数を数えてみる事にした。ルールは簡単で僕が幸せそうだって思った人の塊をカウントしていくだけ。ただそれだけなんだ。もちろん分母、つまり僕が幸せそうだって思わなかった人の塊の数も足した数も覚えておく事にしよう。
僕が幸せだって思った人の塊が実際に幸せかどうかなんてわからないだろ、だって?まあ、君の事は幸せじゃない方にカウントしておく事にするよ、それで満足だろ?

 まず始めにカウントした人は赤ちゃんを抱いた若い女性だった。女性って綺麗だけど(もちろん、『基本的には』の話)赤ちゃんを育てている時が一番美しいって感じるのは僕だけじゃないと思う、って話をこの前彼女に話したんだけど、「僕の子供を生んで欲しい」っていう気持ちは伝わらなかったみたい。今度はもっと直接的な表現にしてみようと考えている。

 次にカウントしたのは駅でイチャついていた若い男女。まあ幸せなんだろうね。彼女と離れて暮らさなきゃいけない僕にとっては不幸の元みたいな塊だけれども仕方がない。舌打ちしつつもカウントしておいてやったよ。

 もう昼過ぎだったせいか帰宅途中の小学生が電車に乗ってきた。小学生なのに電車で通わなきゃいけないなんて可哀想だなって僕は思うんだけど、彼らは別にそんな風には考えてないんだろうな。小さい子供は環境に順応するのが上手いからね。僕も見習わなきゃ。友達同士でお喋りしている顔は本当に楽しそうだからカウントしておこう。

 コンビニの前を通ると煙草を吸っている学生服の高校生が数人いた。未成年者の喫煙は法律違反ではあるけど、そんな事は僕にはどうでも良くて(本当は良くない事は知っているけど)、煙草を吸ってますってアピールするのが鼻持ちならないんだよね。格好悪いにも程があるよ。まあとにかく、彼らの頭の中身は幸せなんだろうね。でも、僕とは幸せの基準が違うからカウントしないよ。

 その後も色々な幸せな塊を見た。普段は気にしていなかったけど、幸せがこんなに見つかると僕まで幸せな気持ちになってくるよ。もちろん、逆に自分が不幸の主人公みたいな顔をして歩いている(まるで僕みたいな)人も結構いたけどね。僕も気を付けなきゃいけないね。

 そうそう、今日一番印象に残った幸せは手を繋いで歩いている老夫婦だったって事をどうしても言っておきたい。まあ、僕くらいの若さの人間がそういった幸せを求めるのは早過ぎる気もしなくはないけどね。でも、本当に素敵だったなあ。

 帰宅してからこうやって今日見た幸せについて考えていると、エアメールが届いた。それを読んだ僕は、今日最後のカウントをしてから返事を書く事にしたんだ。

 なぜか相当前に書いたまま『下書き』状態にしてあったので『公開』状態に直してみました。『後悔』状態にならない事を祈る次第であります。

 ・変更箇所
冬の日の暖かさ⇒春の暖かさ