読書感想文4 ― 『「水」戦争の世紀』

 『猪瀬直樹』氏の記事は興味深いものが多いので、見付けると出来るだけ読む様にしています。この連載コラムは分量もそれ程多くなく読み易いのでお薦めです。

【猪瀬直樹の「眼からウロコ」】水メジャーが地方の水道事業を狙っている (nikkeiBPnet)
 さて、上の記事を読んだところ、内容は結構違うのですが、随分前の読んだ本書を思い出したので、引っ張り出して再読してみました。久しぶりに感想文を書いてみます。

 本書の初版が2003年です。まだ10年には届きませんが、最近の本と言う訳ではありません。僕が読んだのは確か2004年だったと思います。新しくはありませんが、今読んでも決して古い内容ではないと思います。

 再読してみて改めて感じたのは、初めて読んだ当時も今も感じる危機感は変わらない、と言う事でした。僕自身も社会的状況も国策も世界的な情勢も、僕が知らないだけなのかもしれませんが、危機感は感じられるものの、何か動きがあるのか、自分が動いているのか、と言うと余り実感出来ません。

 僕が思うのは、だからこそ怖いと言う事です。望んでいる訳ではありませんが、兵器を使った『戦争』は目に見えるのでわかり易いです(もちろん、それに反対する事自体は容易ではありませんが)。しかし、この手の目に見え難い問題は、気が付いた時には終わりと言う可能性が感じられてしまいます。

 生物の生きていく上で必要不可欠な物が一企業の、また一国の思うがままになる可能性と言うのは考えただけでも恐ろしいものです。身近で、現状日本では比較的コストの低い資源なので、ついつい忘れがちになってしまいますが、問題の重要性は常に考えていなければいけない、と感じました。

目次
はじめに
第1部 淡水資源危機
 第1章 非常警報 - 世界の淡水が涸れてしまう
限りある資源 / さまざまな脅威 / 死にゆく惑星 / 必死の探索 / 干上がったアメリカ / 絶望的なメキシコ / 中近東の危機 / 中国の「脅威」 / 非常警報
 第2章 地球が危ない - グローバルな水危機が地球と生物種を脅かす
汚染と化学物質 / 世界の有害水系 / 五大湖を失う / ウェットランドの喪失 / 森林伐採 / 地球温暖化 / 過剰な感慨と持続できない農業 / ダムとダム湖
 第3章 渇きによる死 - グローバルな水危機が人類を脅かす
致死の水 / 水への不公平なアクセス / エリートの特権 / ダムの悪影響 / 水紛争 / 自然と権力 / 国境地帯の紛争 / 民間対公共の水管理
第2部 政治の策略
 第4章 すべてが売り物 - 経済のグローバル化が世界を水危機に追い込む
経済のグローバル化 / 多国籍企業 / 自然の商品化 / 民営化計画 / 金融投機 / 国際競争力
 第5章 グローバルな水道王たち - 多国籍水道企業は地球の水を商品化する
「青い」鉱脈を掘り当てる / 水道王たち / 征服へのスエズの足取り / ビベンディ帝国 / エンロンの賭け / ライバルの出現 / 民営化による大失敗
 第6章 水カルテルの出現 - 企業と政府はいかに世界水貿易の準備を整えたか
パイプライン回廊 / スーパータンカー / 大運河 / ウォーターバッグ計画 / ボトル詰めの水 / コーラ戦争 / グローバル・カルテル
 第7章 グローバルな結びつき - 国際貿易と金融機関はいかに水企業の道具となったか
企業の政治操作 / 国際金融 / 世界貿易 / GATS2000 / 地域ブロック / 投資協定
第3部 進むべき道
 第8章 反撃 - 水の権利の強奪に対し、人びとは世界各地で抵抗している
市民の手に! / 民営化と戦う / 水の輸出 / 水質を守る闘争 / 水系の回復 / 脱ダム / 国際的な闘争
 第9章 立脚点 - 共通の原則と目標が世界の水を救う
岐路 / コモンズとしての水 / 水のスチュワードシップ(資源管理) / 水の平等性 / 水の普遍性 / 水の平和 / 十の原則
 第10章 前進するために - 普通の人びとがいかに地球の水を救えるか
水の保全 / 水の公平な分配 / 水の安全保障のための十ヵ条


 本書は『目次』を見て頂ければわかる通り、初めに水資源の現状について、次にその問題を大きく複雑に、そして深刻にしそうな国家と企業の問題について、最後に今後について書かれています。

 本書のスタンスは基本的にはウォータービジネスの危険性に対して警鐘を鳴らすというものです。たしかに『権利』の『ニーズ』化と言う所には自分も危険性は感じなくもありません。

 しかし、『健全な』市場にコントロールされた企業の方が国などの公的機関が運営するよりも効率良く危険性も少ないと僕は思います。(ただし、現状『健全な』市場と言う部分が怪しいのですが)

 本書からも企業と手を組んだ国際的な公的機関がかなり問題である事がうかがえます。

 一番最初に挙げた記事で猪瀬氏も「水メジャーの進出自体は悪いことではない」と書いていますが、自分も同感です。ただ、日本企業が戦える土壌は確保しておかなければならない、とは思います。

 気が付いたら日本の水道事業は海外メジャーの独壇場だった、と言うのでは遅すぎますからね。水道事業はライフラインですから、失敗は許されません。

 ところで話は変わりますが、個人的には水を売り物にした、特にペットボトル入りの水を販売しているCMの胡散臭さが嫌いです。エコエコ叫んだり、慈善事業かの様に見せたりするのが気に入りません。

 公正であるならば、ビジネスはビジネスで問題ないと思います。そこに『人助け』や『社会の為』何て言う安っぽい台詞を付けて欲しくありません。

 日本人は『水』と言う物に対する意識はかなり低いでしょう。ダムの問題は治水か税金の無駄遣いと言う側面で語られる事がほとんどですし、家庭の水使用は家計と言う経済的な観点から語られる事がほとんどです。

 石油が国家戦略の要だった時代になって半世紀程経ちますが、これから新に『水』と言う資源もそこに加わる事は間違いないです。

 そう言った身近で重要な資源である『水』のこれからを考え直すきっかけとして、本書は適切な良書であると思います。

関連リンク
【猪瀬直樹の「眼からウロコ」】東京水道は水ビジネスの国際市場に参戦 (nikkeiBPnet)